自分の美貌に気がついて

 呉羽之介は今更ながら、自分の美貌に気がついて、吐息と一緒に心の奥で呟《つぶ》やいたのであります。 ほんに呉羽之介自身にしても、これまでにこの絵姿のように美くしい男を見たこともなければ、これよりあでやかな婦女を巷《ちまた》に見たこともないのでした。女にしても見まほしい――此の形容の詞《ことば》はもはやこのような若衆すがたに対しては、役に立つはずがありませぬ。 重たげに艶々《つやつや》しい若衆まげ、黒く大きく切れ長な目、通った鼻梁《はなばしら》、綻《ほころ》びる紅花にも似てえましげな唇、そして白つつじをかざした手のあのしなやかさ! 呉羽之介は、まっ白な、細い手を膝《ひざ》の上にのせて私《ひそ》かに検《しら》べるようにみつめました。爪紅《つまべに》をさしたようなうるわしい爪はずれ、品よく揃ったやさしい指――彼は自分のからだに、指先にさえもあの絵すがたにも見られない、より以上の美くしさ、しとやかさ、優美さが宿っているのをハッキリ知って思わずふたたび心に叫ぶのでした。 ――何といううるわしさだろう! 激しい感動にわれを忘れてぼんやりとしている呉羽之介を、心配そうにさしのぞきつつ露月は言うのでした。「どうじゃ、呉羽之介どの、どこぞそなたの気に入らぬところでもあるかな?」 呉羽之介は不意を打たれて思わずポーッと頬《ほお》を染めました。「あまり美くしくお描きなされたように存じまして――」 正直な絵師は頭を振った。「いやいや、そなたの美くしさの、万分の一も写し難い――だが、そなたの美くしさは天のたまもの――人間の絵描きの腕ではこれ以上写しがたいのも道理だ」「呉羽之介どの、御覧なされたか」 と、片里はじっと顔を見て申しました。

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