この絵すがたより美しい男《もの》

「そなたはこの絵すがたより美しい男《もの》と、どこぞでお逢いなされたか? 決してお逢いになったことはあるまい。絵すがたに写してさえ、命のない絹の上に画がかれてさえ、これ程の美くしさだ。そなたの美くしさにはいのちが宿り光りが輝やいている。な、先程わしが、そなたほどの仕合者はこの世にないと言うたのが、嘘いつわりではないことが御合点出来たであろうと思うが――」 呉羽之介はうっとりと、何やら考え込んだまま返事をしようともしませんでした。 その有様を眺めて、片里はさも満足げに、「それに気がつかれたら、そなたのその美くしさと若さとが、どのように大事にされねばならぬかということもおわかりになる道理――そしてまた、どのような歓《よろこ》びも楽しみも、そなたの思いのままだということも、自然おわかりになったであろう」「又してもそのようなことを――」 と、露月はかたわらから遮切《さえぎ》って、「何も知らぬ子供の耳に、たわけたことを聴かせずとものことじゃ」「わしは何もたわけたことは言わぬぞ。わしが思うには、世の中で、およそ一ばん美くしいものは恋じゃ。その世の中で一ばん美くしいものを、世の中で一ばん美くしい呉羽之介どのに教えるのが、何で悪い! お身は絵かきにも似合わぬ木強漢だの」 と、言う折から、先程から庭掃除をしていたかの老人が、軒下に来てうずくまり、露月に向って言いました。「あそこに茂った矢筈《やはず》ぐさが、兎角《とかく》そこらにはびこりますが、聊《いささ》かのこしてその外《ほか》を刈りとりましてよろしゅうござりますか?」「庭の苔《こけ》をいためぬよう、善いようにのぞいてくれ」

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