片里どのの言葉ご用心なされ

「呉羽之介どの、片里どのの言葉ご用心なされ――学は古今に渡り、識百世を貫《つら》ぬく底の丈夫《ますらお》なれど何を拗《す》ねてか兎角《とかく》行《おこない》も乱れ勝ちな人ゆえ、この人の言うことなぞ信用はなりませぬぞ」「これはまた聖人どののお叱《しか》りか――」 片里は親しい友人の罵倒をかるく笑い...

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一生懸命にはたらいているのです

 呉羽之介は片里が指すままに庭をながめました。青々《せいせい》たる梧桐《ごとう》の下に箒木を手にしている老人は、老い屈《かが》んだ腰も重げにうめきながら、みにくい皺《しわ》で一ぱいになった顔を、日のまぶしさにしかめつつやせ衰えた脛《はぎ》をふんばり、僅かな仕事に汗水を流して、一生懸命にはたらいている...

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頼りの兄弟姉妹もなく

「わしはこれまであらゆる世の中を見て来たつもりだが、まずそなた程の仕合者を、二人と見たことはござらぬ」「何で私が仕合者でございましょう」 と、呉羽之介は合点《がてん》せずに、「父親には夭《はや》く死に別れ、頼りの兄弟姉妹もなく、ただ母親ひとりの袂《たもと》にすがって日を送るものでございます」...

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